あの日あの後、電信柱の影で子猫を抱きながら泣いていた私を見つけたのは叔父さんだった。
泣いている理由を聞くことも無く、叔父さんは私を家に連れ帰りあれこれと世話をしてくれた。
もう本当に叔父さんには迷惑を掛けっぱなしだ…。
落ち着いた私がお風呂から上がると居間からチャピチャピと音が聞こえてきた。
見てみると子猫がミルクを舐めている。
叔父さんが猫をタオルで拭いてミルクを与えたらしい。
飼う事に叔父さんが許可をくれたので私はその子猫をチェシャ猫と名付けた。
我ながら安直だと思うんだけど…。
私や叔父さんが帰るとコロコロと鈴を鳴らして甘えた声で餌くれ攻撃を仕掛けてくる。
可愛い家族が増えてしばらく私は寂しさを忘れていた。
その日は、朝から妙な胸騒ぎを覚えていた。
学校に居る間、何処からとも無くヒソヒソと囁く声と笑い声が微かに聞こえていた。
なんだか気持ちが落ち着かない。
隣に座っている一ノ瀬くんはいつもと変わった様子も無い。
気味が悪いので今日は早く帰る事にしよう。
早くチェシャ猫をかまってやりたい。
いつもと違う道を通ってペットショップに寄って猫缶を3つ買って家路に着いた時
私の予感は見事に的中した。
「っんー!」
不意に誰かに口を塞がれ路地の裏に連れ込まれた。
危機管理の無い私が馬鹿だった。
普段の道なら人通りは少なくてもそれなりに明るい道を通っていたのに…
路地裏の壁に叩きつけられて私は始めて相手の顔を確認出来た。
男が二人。
顔は良く見えない。
悪寒が背中をなぞる。
「あの、何か…用ですか…」?
恐怖で声が上ずって上手く喋れない。
膝が勝手に動いている。
「用が無ければわざわざこんな事しないんだけどねぇ」
ククッと嫌味ったらしく男は笑った。
「声を…出しますよ!」
「あー、それはやめてもらいたいかな」
「だったらっ!っ…ゲホッゲホッ」
話した瞬間、ドスッと腹部に固い物がめり込んだ。
足から力が抜けてその場にうずくまる。
苦しくて息が出来ない…
苦痛で涙が零れる。
何でこんな事に…
「ま、黙って痛い目に遭ってくれればすぐ済むからさ。クククッ」
下衆な笑い方が小さく響く。
冗談じゃない!
一撃で朦朧とするくらい苦しい思いをしてるのにこれ以上やられたら本当に死んじゃう!
「っはぁ、っはぁ…っはぁぁ、ゴクッ」
今なら…まだ
慎重に息を整えて、相手が油断しているスキをついて私は咄嗟に
<とにかく叫んだ> <チェシャ猫の名前を叫んだ> <一ノ瀬くんの名前を叫んだ>